衛星海面高度計と漂流ブイを用いた黒潮流軸と海面流速の変動に関する研究

安倍 大介

 黒潮は,世界の海流の中でも非常に強大な流れの一つであり,熱の輸送によって特に長期的な気候変動に大きな影響を与えていると考えられているが,これまでの研究は主に船舶観測に基づいたものが多く,黒潮全体を細かい空間分解能で記述することは困難であった.本論文では衛星海面高度計と漂流ブイのデータを組み合わせて,黒潮流軸位置や黒潮流域周辺における絶対的な海面流速場の変動について解析した.

 まず,Uchida and Imawaki (2003)による手法を用いて,衛星海面高度計の観測期間全体にわたる海面での平均流速ベクトル場を推定し,これに海面高度計からの時間変動成分を足しなおすことで,絶対的な海面流速場の時系列を作成した.次に,得られた海面流速場を用いて黒潮流軸位置を定量的に推定した.得られた流速場と流軸位置を現場観測データと比較した結果,両者は概ね良い相関を示した.

 次に,海面流速場と流軸分布を用いて,1993年から2000年における黒潮非大蛇行流路の特徴について調べた.非大蛇行流路では,黒潮が伊豆海嶺を通過する際に海底地形の影響を強く受けており,通過位置に三つのモードが存在することが分かった.また,紀伊水道沖では流軸は土佐ばえ(海山)のすぐ南側で非常に安定しており,九州南東から伝播してきた黒潮の小蛇行の振幅がこの付近で減衰していることが分かった.黒潮の流速は九州南岸から遠州灘沖にかけて流さが増加しており,黒潮が離岸することが多い伊豆海嶺付近では,黒潮横断方向の流速構造が流軸を中心に陸側と沖側で対称に近い構造になっていることが分かった.

 最後に、2004年7月に起こった黒潮の大蛇行への遷移期間中の黒潮流軸の時間変化を調べた。黒潮が非大蛇行流路から大蛇行流路に遷移する直前、黒潮流軸は紀伊半島沖の膠州(こうしゅう)海山の北縁の位置(31.5°N付近)まで南下しており,九州南東で発生した小蛇行がここまで南方へ発達したのは衛星観測期間ではこのケースが初めてであった.本研究で得られた黒潮流軸の遷移の様子は,Endoh and Hibiya (2001)による指摘と一致しており,大蛇行発展の際の海底地形の影響が強く示唆された.

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