衛星資料による北太平洋の傾圧擾乱の伝播に関する研究

青木 茂

 人工衛星Geosatの海面高度計の2年間のデータを基にして,北太平洋における中規模および循環規模の擾乱の伝播特性と役割について調べた.中規模擾乱の性質を詳しく調べるために,最初の1年間の人工衛星NOAAによる海面水温データも併用した.この研究によって,以下の点が明らかになった.

 海面力学高度の時間変動成分から地衡流を仮定して求めた渦運動エネルギーは,本州南方の黒潮蛇行域と黒潮続流域で最も大きいが,亜熱帯循環の内部領域である20°−23°Nを中心とする海域でも大きい.黒潮続流域では,海面力学高度と海面水温の擾乱の空間分布の時系列から,これまでほとんど知られていなかった冷水渦の挙動が詳細に捉えられた.特に,西向きに長期間並列した二つの低気圧性擾乱が合体する仮定が明瞭に追跡された.統計的に見ると,この海域では西向きに伝播する傾圧的擾乱が卓越しており,その西向き位相速度は全体的に傾圧第一モードのロスビー長波の理論値よりやや大きい.黒潮続流の下流域(170°E−180°E)での擾乱の空間構造は平面波的で,等位相面は北側では北西−南東,南側では南西−北東を向いている.黒潮続流域全域で,擾乱は全体として平均流を強化する方向にある.北太平洋中緯度域全域においても西向きに伝播する傾圧的擾乱が統計的に卓越している.擾乱の西向き位相速度は全体的として傾圧第一モードのロスビー長波の理論値にほぼ等しいが,海域によっては観測値の方がやや大きい.

 低・中緯度域において,長周期で循環規模の擾乱が西向きに伝播している様子が捉えられた.この擾乱の位相速度は傾圧第一モードのロスビー長波の理論値とよく一致する.30°N以北の海域や中緯度以北の西武亜熱帯循環域では,このような長周期のロスビー波は卓越していない.40°N付近には半年周期で東向きに伝播する変動が卓越している海域もあるが,この変動は海面での風応力の変動と高い相関を持っている.

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