IESによる四国沖黒潮域の地衡流量の変動に関する研究

柿木 康児

 倒立音響測深器(IES)は,海底に設置し,海底と海面の間の音波往復時間を連続して観測する測器である.音波往復時間は音速の逆数の深さ積分で表され,音速は水温の変化の影響を強く受けることから,音波往復時間の変化は主水温躍層の深度変化をよく反映する.またIESデータはステリック・ハイトに対応する表層の季節変化の影響を受けにくいことから,衛星海面高度計の観測する水位変化に比べ,主水温躍層の深度変化によって生じる変化を求めるのにより適していると考えられる.本論文では,日本南岸の黒潮を挟む2測点のIESと海洋観測データから,GEM法を用いて地衡流量を推定し,その変動要因と季節変化について解析した.

 まず,海洋観測データから,水温のGEMを沿岸側と沖合側に分けて求めた.得られたGEMは,主水温躍層の深度変化に伴う水温の変化をよく表現していた.さらに,IESと海洋観測のデータを組み合わせて,9年にわたる音波往復時間の時系列を求めた.得られた音波往復時間は,海洋観測データから得られたものと非常によい一致を示した.

 次に,IESデータから求めた音波往復時間の時系列を水温のGEMに適用して,海面力学高度の時系列を求めた.得られた海面力学高度の変化は,海洋観測や衛星海面高度計のデータから得られた海面力学高度偏差の変化をよく表現していた.また,IESと衛星海面高度計から得られる海面力学高度偏差のパワースペクトルを求め,両者の違いが,中規模渦と考えられる時間スケールにあることが分かった.

 最後に,IESデータから求めた力学高度の時系列から,1000 dbar準拠の地衡流量の時系列を求めた.推定した地衡流量は,海洋観測データから求めたものと非常によく一致した.その一致度は,衛星海面高度計から得られるものよりも高かった.地衡流量は,海面の単位深さ当りの流量と“equivalent depth”の積として表現できる.得られた地衡流量の変化は,主に海面の流量の変化で決まっており,一部が“equivalent depth”の変化によることが分かった.これより,衛星海面高度計データから得られる水位差から地衡流量を推定する手法が有効であることが確認された.IESから得られた地衡流量の季節変化は,3月に最小,9月に最大となり,その変動幅は全流量の約5分の1であった.

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