衛星海面高度計と漂流ブイを用いた北太平洋の海面流速場の研究

安倍 大介

 衛星海面高度計は,長期間にわたって広域のデータを高い空間分解能で得ることができるが,現在のジオイドモデルが不十分なため,その時間変動成分しか議論することができない.Uchida and Imawaki (2001)は,衛星海面高度計から得られた海面流速のアノマリー場と表層漂流ブイから得られた海面流速を組み合わせることによって,1993〜1999年の7年間における北太平洋の平均海面流速ベクトル分布を推定した.これを基にして,ここでは以下の二つのテーマについて研究を進めた.

北太平洋の平均海面力学高度場の推定

 上記のスケールの運動では,第一近似として水平非発散であり,このベクトル場は海面力学高度場で表現できるはずである.しかし,この手法で求めた平均流速は各地点で独立であるため,その仮定は満たされていない.そこで今回はLe Traon et al. (1992)による最適内挿法によって,流速ベクトル分布から海面力学高度分布を推定することを試みた.得られた力学高度場は細かい空間スケールの特徴を表現している.

日本南岸での黒潮流路の時間変化

 これまで,黒潮流軸の位置は,主として船舶観測によるデータを用いて決定されていたため,おおまかなパターンを知ることは可能であったが,細かい空間分布を表現するのは困難であった.上記の平均流速ベクトル場を,衛星海面高度計データから求めた流速ベクトルのアノマリー場と組み合わせることで,ある日の絶対的な地衡流速場を表現することができる.今回はこの流速ベクトル場を用いて,日本南岸での黒潮流軸位置を10日おきに求めた.黒潮流域で最大流速位置を抽出し,それを結ぶことによって,流軸を客観的に求めた.得られた流軸位置を,海洋情報研究センターによる黒潮流軸データと比較した結果,ここで求めた黒潮流軸はより細かく空間分布を表現していることが分かった.

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