TOPEX/Poseidon海面高度計による黒潮流路の変動の検出

後藤 真由美

 米仏共同の人工衛星TOPEX/POSEIDON(以下T/P)は,海洋の地衡流と関係した力学的海面高度を測定する専用の衛星である.TOPEXとPOSEIDONの二つのマイクロ波高度計と補正用センサーを搭載しており,地球楕円面からの海面高度を精度5 cm程度で求めることができるとされている.この研究では,黒潮流域における,1992年9月末から約一年間のT/Pのデータ(補正項を含む)の信頼性を評価し,衛星軌道沿いに見た海面高度の変動に関する解析を行った.

 現在,ジオイドの精度が不十分なので,計測された海面高度から力学的海面高度(SSDT)の絶対値を求めることはできない.そこで,海面高度計データからは,SSDTの時間変動成分(SSHA)のみを取り出し,平均場を過去の海洋観測データから求めた気候学的平均値(CLM)で近似して,SSDTを近似的に求める.それを合成SSDT(SSDTの時間変動成分とCLMの和)と呼ぶ.

 まずSSHAの誤差を簡単に評価するために,各軌道に対して20°Nから35°NまでのSSHAの空間平均をとり,その時間的な変動を調べた.その結果は,夏に上昇して冬に下降するという季節変動(振幅13−15 cm程度)が卓越している.この季節変動は,現場観測で示されているものとほぼ一致しており,現実の海洋の変動と考えられる.この季節変動からのずれ(標準偏差が8−9 cm)は,各軌道間でほぼ無関係に変動しており,長波変動の計測誤差と考えられる.

 得られた合成SSDTを検証するために,CTD/XBTデータと比較する.両者は,おおむね一致している(標準偏差で5−10 cm程度のずれ).部分的には,40−50 cmのずれが存在する.ずれの原因としては,T/Pは順圧成分と傾圧成分の和を計測しているのに対し,CTD/XBTは傾圧成分のみを計測していることなどが考えられる.

 つぎに,T/Pの合成SSDTから海面の地衡流速を求める.その東向き成分の大きい場所を「海洋速報」に示された黒潮流路の位置と比較すると,両者の対応は良好で有意な相関がある.特に,遠州灘沖の軌道10では,黒潮が直進流路から蛇行を起こした1993年4月初旬に,流軸が大きく沖に移動しているのが明確に捉えられている.なお,1992年11月初旬にも流軸が多少沖に移動している.また,足摺岬沖の軌道112上では,流軸はあまり移動しておらず時間的に安定していることが分かる.九州の南東から四国沖を横切る軌道25では,1992年10月から黒潮が蛇行を起こす直前の1993年3月にかけて,強流帯が29°Nから四国沖の32° 30’ までほぼ一定の速度で移動している様子が示されている.

 定量的に見ると,平均場としてSSDTの気候学的平均を用いることによる誤差が存在する.特に,足摺岬沖の軌道112上では,1993年から1995年に行われている集中観測のデータと対応させるために,SSDTの精度を上げることが課題となっている.今後,長期にわたるデータの集積によって,流軸位置や流量についての精度を向上させる必要がある.

ページを閉じる