係留流速計による黒潮変動の研究

橋部 雄志

 1993年〜1995年まで行われた黒潮協同観測ASUKAの一環として,四国沖足摺岬から南南東に延びる測線上の9点に1993年10月から1994年9月まで設置されていた係留流速計観測によるデータを解析した.特にCTD/XBT観測によるデータとの組み合わせにより,係留期間中の一定深度での黒潮の流速場と水温場の時間変動を推定した.

 650 m層での水温の平均値は,黒潮域の係留点CM02〜CM07では5℃〜9℃,黒潮反流域の係留点CM08〜CM10では,9〜11℃であった.黒潮においても地衡流が成立していると仮定して一定深度における流速のASUKA測線に垂直な方向の成分の時系列を推定した.650 m層における流速(v成分:測線に垂直で東向きの成分)の平均値は,係留点CM03〜CM07で20〜30(cm/s),係留点CM08〜CM10では-6〜+1(cm/s)であった.また,黒潮のこの深度での最強流部は水温8℃の等温線とほぼ一致している.

 実際に地衡流の仮定が成立しているか検定するため,全係留点について700 m層と1500 m層に設置された流速計間の流速(v成分)の鉛直シアを求め,これとCTD/XBTデータから求めた地衡流シアを比較した.この際,鉛直座標として距離の代わりに水温を用いた.流速計のデータの平均値を求める期間を変えて比較したところ,5日平均したときが最も相関が高く,地衡流平衡が完全に成立していると仮定した場合との平均自乗誤差(rms:root mean square)も低くなった.特に黒潮域では,地衡流近似がほぼ成立していることが分かった.

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