係留観測による黒潮の傾圧場の変動に関する研究

柿木 康児

 足摺岬沖黒潮協同観測(ASUKA)の1993年11月から1995年10月までの2年間のIESと係留流速計の水温計のデータを用いて,傾圧場を求めた.ここでは,IESデータから,音波往復時間と水温の鉛直分布の関係(GEM:gravest empirical mode)を用いて水温の鉛直分布を求める従来の方法を拡張して,係留流速計の水温データから水温の鉛直分布を求めた.このようにして得られた水温の鉛直分布とCTD/XBTから得られた実測水温の鉛直分布を比較したところ,よく一致していた.また,水温の鉛直分布を求めたことで,新しく各深度での水温を求めることが可能になった.

 2年間の傾圧場の時系列データから,平均場について求めた.圧力2000 dbar(海底が2000 m以浅の場合は海底)に準拠した地衡流を求め,それを海面からその深さまで積分した流量(傾圧流量と呼ぶ)を求めたところ,黒潮と黒潮再循環流の境界は31°Nにあり,東向流としての黒潮の傾圧流量は52 Sv(1 Svは10 6 m3/s)で,再循環流の流量を差し引いた,25°Nまでの通過流としての黒潮の傾圧流量は34 Svであった.また,係留流速計の実測流速に準拠した地衡流速から,圧力2000 dbar以浅の流量(絶対流量と呼ぶ)を求めたところ,黒潮の境界は,31°Nにあり,東向流の絶対流量は48 Svで,通過流の絶対流量は39 Svであった.このように,沿岸側から累積した傾圧流量と絶対流量の構造は,大きく変わらないものであった.

 同様に,2年間の傾圧場の時系列データから,2年間の季節変動について求めた.主水温躍層(12℃が代表値)の等温線深度の季節変化から,黒潮の平均的な境界である31°Nを挟んで,30°Nと32°Nで深度変化の振幅が大きくなる.主水温躍層深度は,30°Nで2月に浅く,8月に深くなり,その深度差は約100 m.32°Nでは,5月に浅く,11月に深くなり,その深度差は約90 mである.この主水温躍層の深度変化が,傾圧流量や海面地衡流速の季節変化と時期が一致している.

 黒潮の幅と傾圧流量にはよい対応関係があり,黒潮の幅が大きくなるときに傾圧流量が増加している.ここで,沿岸から累積した東向流としての黒潮の傾圧流量の季節変動は,主水温躍層の深度変化で見られた30°Nの変動に対応して,2月に小さく(46 Sv),8月に大きい(63 Sv).しかし,25°Nまで累積した通過流としての黒潮の傾圧流量の季節変化がほとんど見られないことから,東向流と再循環流の流量変動は,30°Nの主水温躍層深度の季節変化で生じていると考えられる.また,黒潮の海面の最大地衡流速は,主水温躍層で見られた32°Nの変動に対応して,4月に小さく(65 cm/s),10月に大きい(85 cm/s).

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