GPSによる対馬海峡の海面高度観測

神崎 優

人工衛星による海面高度計測は、外洋では非常に有効だが、沿岸域では観測精度や時空間分解能に問題がある。そこで本研究では、現場観測の豊富な対馬海峡 を往復運航するフェリー「ニューかめりあ」にキネマティックGPSを取り付け、海面高度の直接計測を行った。 「ニューかめりあ」(JST12:30博多発〜18:00釜山着、20:00釜山発〜7:30博多着)の船楼上部に取り付けたGPSアンテナで30秒毎に測位したデータを、日立造船のキネマティックGPS解析ソフトRTnetを用いて国土地理院が提供しているGPS連続観測システム(GEONET)における電子基準点(上対馬、津島、石田)を参照して相対測位の手法で解析を行い、アンテナ高度を求めた。さらに、アンテナ高度に含まれていると考えられるジオイドや潮汐、喫水といった成分を除去し、海面力学 高度を求めた。 こうして求めた対馬海峡を横切る海面力学高度分布に関して、2011年8月26日〜9月1日までの1週間の平均を取ったところ、往路と復路で差が生じていた。往路と復路の船速の違いに着目し、この原因が喫水補正にあるかを検討する為に、博多湾内で海面の高さを測定する追加実験を行った。追加実験で求めた船側と喫水の関係を用いて再度補正を行ったが、往路と復路の差はより大きくなる結果となった。このことから、往路と復路の差は喫水変動によるものではないこと がわかった。 一方で、喫水補正を行わずに海面力学高度を求め、11月1日〜11月28日までの4週間の平均を取ったところ、往路と復路でよく一致する結果となった。このことから、一週間程度の平均で含まれていた往路と復路の高度差は、GPSの観測エラーか、潮汐補正の精度不良によるものだと考えられる。 さらに、GPSの観測から求めた海面力学高度とADCPで観測した流速から推定した海面力学高度を比較したところ、冬季では両者の変動幅の差が大きく、夏季では変動幅の差が小さいことが分かった。このことから、GPSの観測から求めた海面力学高度とADCP流速から求めた海面力学高度の差は、ジオイド補正の精度不良のような時間変化しない成分でななく、風などの季節変化する要因に起因していると考えられる。

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