漂流ブイと衛星海面高度計を用いた黒潮を横切る物質輸送の研究

加藤 克幸

 北太平洋の西岸域である東シナ海では,外洋域と沿岸域との間に強流帯である黒潮が存在している.この黒潮を横切って沿岸域と外洋域との間で海水や物質がどのような過程で交換していくのかを解明することは,海洋物理のみならず,水産学・海洋環境学的にも重要である.本論文では,多数の漂流ブイの軌跡のデータと,海面高度計から求めた絶対海面流速場から推定された黒潮流軸の位置データを用いて,東シナ海で黒潮を横切って沿岸域と外洋域との間の海水・物質交換がどのような過程で行われているのかを検討した.

 まず,KT05-25次航海で黒潮上流域から放流した4個の漂流ブイの軌跡データを用いて,具体的に黒潮を横切る輸送について詳細に記述した.次に,14年間で東シナ海を通過した149個のWOCEの漂流ブイの軌跡データを用いて,黒潮を横切る輸送について統計的な解析を行った.まず,漂流ブイと黒潮流軸の距離を定義し,その時間変化に漂流ブイ自身の流軸方向への速度Vbと,黒潮流軸が漂流ブイに近づく速度Vkを導入した.そして,黒潮流軸の両翼25 kmを黒潮域と仮定して,「黒潮域」「沿岸域」「外洋域」の3つの領域間を漂流ブイが移動する事例について統計的な解析を行った.

 その結果,沿岸域や外洋域と黒潮域との輸送では,東シナ海の黒潮縁辺部においてVbが支配的であり,吹送流などの非地衡流成分や黒潮の縁辺部における小スケールの渦や前線波動による黒潮に直交する成分の地衡流速によって,漂流ブイが黒潮域から離脱する(又は逆に取り込まれる)過程が重要であることがわかった.一方,黒潮域内を黒潮に直交するような方向へ移動する動きには,Vbよりも黒潮流軸自身の移動Vkが効いていることがわかった.特に,黒潮流軸の変動が大きい台湾北東域やトカラ海峡では,黒潮流軸が短期間で大きく移動したため,沿岸(外洋)域にあったブイが取り残されて,相対的に外洋(沿岸)域に移動する事例などが見られた.

 

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