海面高度計を用いた伊豆・小笠原海嶺付近の海面流速の季節変動に関する研究

小川 賢一郎

 北太平洋の亜熱帯循環の西岸境界流である黒潮は,北太平洋の風によって駆動されており,その流量は風応力の渦度から計算されるスベルドラップ流量でほぼ説明される.しかし,季節変動成分に対しては,日本南岸における黒潮流量の観測値は、振幅が約5×106 m3/secで,30°Nの風応力から計算されるスベルドラップ流量の約1/5しかない.Isobe and Imawaki(2002)は,伊豆海嶺を模した海底地形を伴う単純な二層モデルを用いて,季節変動は主に順圧応答となり,伊豆海嶺が西岸としてふるまうと説明した.すなわち,伊豆海嶺の東側では,季節変動成分として冬(夏)季に北上(南下)する流れが生じることになる.しかし,実際にかんそくデータを用いて伊豆海嶺付近の流速の季節変動について調べた研究はほとんどない.そこで本研究では,衛星海面高度計データを用いて,Isobe and Imawaki(2002)で示唆された伊豆海嶺の東縁における季節変動成分の存在を確認することを試みた.

 衛星海面高度計の軌道沿いのデータから年周期成分を抽出し,海面熱フラックスによる水位変動であるステリックハイト(Stammer, 1997)を除くと,伊豆海嶺の東側(20°N〜35°N,141°E〜147°E)に,12(6)月に北上(南下)流に相当する季節変動成分が存在することが確認できた.この高度差は約4〜8 cmであることから,順圧流を仮定した場合,その流量は約24〜48 Svになる.ただし,海嶺より東側の黒潮続流域では,非現実的な強い流れが観測された.海面熱フラックスが大きく,この海域ではステリックハイトの精度が不十分であったためであると考えられる.

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