重力観測衛星GRACEデータを用いた海底圧力変動の検出

大塚亮

 一般に,深層流を観測するのは非常に困難であり,現在でも充分な知見が得られていない.しかし最近,衛星重力ミッションが開始され,地球の重力場の時間変動が得られるようになりつつある.海洋における重力変動は,主に海水柱の移動による質量変動,すなわち海底圧力変動に起因するので,これに伴う深層流の変動が観測できると期待されている.

 本研究では,重力観測衛星GRACE(Gravity Recovery and Climate Experiment)データを用いて,海底圧力変動が検出可能かどうか調べる.GRACEで観測された重力場の球面調和関数係数解のデータを用いて海底圧力変動の空間分布を求めたところ,高次の係数には大きな誤差が含まれていた.そこで,比較的低次までの係数について,GRACEデータによる海底圧力変動と,数値モデルECCO(Estimating the Circulation and Climate of the Ocean)の結果との比較を行なった.その結果,前者の振幅は後者よりも大きく,空間分布も全く異なっていた.これは,GRACEデータに含まれる陸水の大きな質量変動が,球面調和関数の処理の過程で,海底圧力変動に影響を及ぼしていることが主な原因であると考えられた.そこで,任意の範囲のみの空間平均を抽出できるaveraging kernel(Swenson et al., 2002)と呼ばれる空間フィルターを用いて,陸域から離れた海域のGRACE海底圧力の時間変動を再度求めたところ,海洋物理学的に無理のない大きさの変動となった.

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