海洋現象へウェーブレット解析の適用

瀬藤 聡

 近年,新しい信号解析の手段としてウェーブレット解析という手法が用いられてきている.この手法は場の構造を解像度を変えて調べ,場の構造を分離しその可視化を行ったり,ある変動スケールの局所的な卓越度を調べることが可能なものであり乱流解析などに用いられつつある.

 ウェーブレット解析には連続ウェーブレット変換と離散ウェーブレット変換の2種類があり前者は積分変換,後者は関数展開に基づくものである.このうち連続ウェーブレット変換はデータと変換後の写像の間に1対1の関係がなく物理的解釈が難しいことから本研究では離散ウェーブレット変換を用いた.ウェーブレット変換は関数展開する基底関数が局所的であることからデータ中のある領域におけるある波数成分の卓越の度合いを調べることが可能であると考えられる.ところが不確定性関係のためにウェーブレット関数の局在の幅も周波数空間での幅もある程度広がりがある.この事情をフーリエスペクトルと比較することによって調べた.その結果前述のウェーブレット変換の解釈はある程度正しいと結論した.

 ウェーブレット変換で作られるウェーブレット係数からウェーブレット逆変換により元のデータを再構成することが可能である.この際,使用するウェーブレット係数をある波数以下に制限ことが可能である.これによって再構成されるデータと元のデータとの差をとることによりある(周)波数よりも大きい成分のみを抽出できる.これを赤道域の海面水温場の時系列および空間成分に適用した.経年変動と季節(内)変動に分離された場を観察した.El Ninoの年には季節変動が弱く,La Ninaの年には季節変動が強いという結果が最近の研究結果から得られているが本研究においては82/83のEl Ninoの時は合わなかった.

 ウェーブレット変換は時間領域の信号を時間と周波数の2次元に展開することが可能な手法である.しかし,不確定性関係のためにそれぞれの空間での分解能が悪い.この分解能の信頼精度を統計的な基準によって定めることによって,よりuserに使いやすくなると考えられる.

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