CEOF解析を用いた北太平洋の海面水温変動に関する研究

水渡 敬子

 CEOF(Complex Empirical Orthogonal Function)解析は主因子解析の1種で,近年海洋学の分野でよく用いられるようになった.従来は,位相進行する現象を単一のモードでは表現できないEOF解析という手法が多く用いられてきた.本研究では,まず試験信号を用いてEOF解析とCEOF解析による結果の相違を比較した.定在波の場合は,両者ともに単一のモードで表わされたが,進行波の場合は,CEOF解析では単一のモードで表現できるのに対し,EOF解析では,2つのモードに分離され,それらを合成しないと進行波は表現できなかった.また,CEOF解析でも単一のモードで表現できないようなケースがあることが分かった.それは,振幅が時間と共に変化する場合や,波長が時間と共に変化する場合などである.

 北太平洋の海面水温偏差に対してCEOF解析を行った結果,位相の時系列から,第1モード(寄与率26%)と第2モード(寄与率16%)には,3期において同じような周期の変動があることが分かった.つまり,50年代後半から60年代初めにかけて,4,5年周期で位相が反転する変動と,60年代後半から80年代初めにかけての約20年周期の変動と,80年代後半から90年代初めにかけて,数年周期で位相が反転する変動である.ただし,そのような相似性は,第3以降のモードとの間には見られなかった.そこで,本研究では,第1モードと第2モードを足しあわせて北太平洋の海面水温偏差の変動パターンの考察を行った.その結果,北太平洋全域における10年スケールの変動の70年代後半以降の低温化は,従来言われてきた全域にわたる変動パターンではなく,東部で特に見られる現象であることが分かった.これらのことから,本来同じような周期を持つ変動が2つのモードに解析の都合上,分かれてしまったということが示唆される.

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