海面高度計と係留流速計による九州南西方の黒潮変動の研究

澄川 祐一

 中村ら(2000)は,沖縄舟状海盆北部の陸棚斜面に係留した流速計データを解析した結果,500 m深の流速は50日周期の変動が卓越していて,トカラ海峡における黒潮流軸位置指標(KPI:Kuroshio Position Index)との間に関係があることを示唆した.一方,Ichikawa(2001)はKPIと海面高度計データとの相関解析により,九州南西海域において50〜60日周期で海面力学高度(すなわち海面での地衡流)の変動が黒潮下流方向に伝播することを示している.そこで,本研究では,流速計と海面高度計データを直接比較して,海洋表層と下層の変動の関係を明らかにし,九州南西方における50〜60日周期の変動特性を調べる.さらに,長期の海面高度計データを用いて,50〜60日周期の変動の強度が,どのような海況のときに顕著になるかも調べた.

 まず初めに,500〜600 m深に設置されている流速計データとその直上での海面での地衡流を比較した.その結果,表層と下層の流向に約90°の位相差があった.次に,流速計の変動と,その設置点の周辺海域の海面力学高度偏差との同時相関を求めた.下層の主軸方向(東西方向)の流速変動に対し,海面力学高度偏差は,流速計設置点の東部に直径150 km程度の負相関領域が見られた.これは,下層の流速偏差が東(西)向きが強くなると,この領域の海面力学高度は下(上)がり,流速計設置点での表層での地衡流は南(北)向きになることが示唆され,先の表層と下層の流向差と矛盾しない.また,この負相関領域は時間とともに上流から黒潮の平均的な流路に沿って下流方向に移動していた.擾乱の位相速度は8〜25 cm/sであった.以上のことから,奄美大島北西方の陸棚斜面付近からトカラ海峡にわたる九州南西方の表層・下層における一連の50〜60日周期の変動は,黒潮の平均的な流路に沿って下流方向に伝播する高・低気圧性の擾乱によるものであることが示唆された.

 さらに,長時間の海面高度計データを用いて,九州南西方における50〜60日周期の変動の強度変化を調べた.[29.75°N,129°E]と[31°N,129°E]の2点間の海面力学高度の差を用いて,これを,九州南西方における50〜60日周期の変動を代表する指標とした.約7年間の期間で,50〜60日周期の変動は顕著な期間と,そうでないときがあることが分かった.この振幅が大きくなる時期は,半年から2年程度の周期性を持っており,経年変動を取り出した海面力学高度偏差との相関解析から,東シナ海の黒潮の流速が速くなると,50〜60日周期の変動の振幅が大きくなることが示唆された.また,このときの東シナ海の黒潮は蛇行していることも示唆され,その波長と位相速度は270 km,5〜14 cm/sであった.

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