四国沖の黒潮と沿岸側低気圧性渦の流速構造

竹内 宗之

 日本南岸での黒潮の観測やそれに基づく研究から,四国沖では,黒潮の流路は比較的安定して沿岸に沿って流れているが,時々低気圧性渦を伴って離岸することが知られている.しかし,その低気圧性渦の詳細な流速構造や水温構造について明らかではない.本研究では,黒潮と沿岸側低気圧性渦の流速構造や水温構造を明らかにする目的で,1993年〜1995年にかけて四国の足摺岬沖の測線で行われた足摺岬沖黒潮協同観測(ASUKA)のデータを用いて解析を行った.

 まず,係留ADCPで得られた流速と黒潮の流軸位置を比較した.黒潮の流軸位置として,650 m深の7度の等温線の緯度変化を用いた.これは,ASUKA測線上でその緯度が650 m深での黒潮の最強流域と一致しているからである.ADCPが係留されたCM02,CM04の両測点は,基本的には黒潮の中の流れを測っており,100 cm/sを超える強い流れが観測されることもあった.また,黒潮とは逆向きの流れ(反流)が2年間で3回観測されている.

 次に,船舶観測によって接岸時と離岸時の流速断面構造について調べた.係留ADCPは,接岸時にはCM02では黒潮の最強流部からその底を計測しており,CM04では最強流域の沖側の構造を計測していることが分かった.また,離岸時にはCM02では強い反流を観測しており,CM04ではほとんど流れが存在していなかった.このことから,接岸している時には黒潮自体を計測しており,離岸している時には沿岸側の低気圧性渦観測していたことが分かった.

 船舶観測では流速断面の時間変化を求めることは難しいために,約10日毎に得られている人工衛星TOPEX/POSEIDONの海面高度計データを用いた解析を行った.黒潮の流速構造は最強流域では,上層では流速が速く,鉛直シアーはあまり強くない.鉛直シアーの強い300 m〜400 m層で急激に流速が減少し,下層ではほとんど負の値であった.最強流域より沖側では特に鉛直シアーが強い層がなく,概ね,上層から約700 mまで直線的なプロファイルをしていた.また,低気圧性渦の流速構造は,北半分では強い反流となっており,中心付近では弱い流速となっていた.

 また,流速の時間変化について興味深い特徴が見られた.岸寄りの測点であるCM02では黒潮が離岸する時には上層が先に減速し,遅れて下層が減速している.相互相関係数を求めると,約2日で相関が最大になっていた.ただし,この現象は減速している全てのケースに見られるものではなかった.また,逆に加速する時にはほとんど遅れはなかった.

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