ウェーク島南方深海水路における中規模変動

寺原 慎吾

 海洋大循環は,主に表層流と深層流から成り立っており,表層流に関しては観測がある程度容易であるが,深層流に関しては予想される信号の変化幅が小さい上に,実際に測器を係留させて観測を行うことが困難であるため,あまり観測・解析が行われてこなかった.2003年5月から2004年10月まで,深層流が南太平洋から北太平洋へ侵入する唯一の経路であるウェーク島南方深海水路を横断する5測点で,それぞれ3つの流速計(深さ3500 m,4500 m,5500 m)による観測が行われた.本研究では,そこで得られた流速データの時間変動,特に数ヵ月スケールの周期をもつ変動に注目し,解析を行った.流速データから, フーリエ変換を用いて60〜120日の周期帯の変動成分を抜き出し,水路に沿う方向と,水路に垂直な方向の変動成分に分解した後,相関解析を行った.その結果,深海水路に沿う方向の流速変動成分は,鉛直方向に強い相関を持ち,測線上で北東から南西方向へ位相が伝播していることが分かった.さらに,海洋大循環モデルの結果を用い,この周期帯の変動が面的にどのように伝播しているかについても解析を行った.相関解析の結果,モデルにおいても卓越する変動周期は60日前後と異なるものの,観測と同様に数ヵ月程度の変動周期が卓越していた.流路に沿う方向の変動成分については,位相が南西方向へ伝播していた.またこの領域の深層流は順圧成分が主であることが分かった.これらの伝播は順圧ロスビー短波の分散関係式にほぼ一致していることから,深海水路内の中規模擾乱源は水路の西側の海山列であることが示唆される.

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