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荷電粒子の加速・輸送


 大振幅MHD波動による荷電粒子の加速・輸送

宇宙線とは、宇宙から飛来する高エネルギー荷電粒子の総称です。宇宙線は、宇宙空間で人工衛星により観測され、また地上でも間接的に観測されており、宇宙空間に普遍的に存在することが知られています。観測される宇宙線のエネルギー分布は、高エネルギー領域まで、広くべき乗則に従います。まずこの分布は、熱的なエネルギー分布であるマクスウェル分布とは異質であるため、宇宙線が非熱的な加速であることがわかります。そして、このような分布を説明する物理過程は、まだ明らかにされていないのです。

宇宙線の加速は、宇宙プラズマ中に存在する磁気流体波動あるいは磁場揺らぎによる散乱に起因しています。宇宙では、それらの波動や磁場の構造が、局所的に大振幅です。しかし、これまでの荷電粒子の運動の統計は、波動の振幅が小さく孤立波的でないという2つの仮定の元で、主に議論されてきました。我々はこれらの仮定を用いず、実際の宇宙での波動の性質・特徴を取り入れた議論を行っています。

例えば、下図のように、局所的に大振幅な磁場(ソリトン)がある場合、荷電粒子はソリトンで多数回反射されています。磁場にこのような局所構造がある場合、それがない場合に比べて、荷電粒子の拡散のメカニズムは変化し、統計的に効率よく加速することを、我々は示しました。このように、我々はテスト粒子シミュレーションなどの数値計算を行い、統計量を評価することによって、宇宙線の加速機構の解明に取り組んでいます。

さらに我々は、シミュレーションによって得られた粒子の時系列データから、粒子輸送の解析を行っています。荷電粒子の輸送は、これまでのようなブラウン運動に代表される古典拡散では、もはや記述できないことも上の例から分かります。新たなモデルを取り入れることで、宇宙線の拡散過程の特徴をよりよく説明することができるのです。


局所的に大振幅な磁場中での荷電粒子の軌道のシミュレーション結果を、空間(横軸)と時間(縦軸)のグラフ上に示している。青線は磁場が大振幅な領域を、黒の線は粒子の軌道を表す。





 銀河系内超新星爆発を起源とする宇宙線の最高エネルギー

宇宙線とは宇宙空間に存在する非常に高いエネルギーを持つ荷電粒子のことで、1912年に発見されました。観測された宇宙線のエネルギーは10^8eVから10^20eV以上と幅広い範囲にわたっています(1eVは温度に換算すると11600K!!)。これまで観測された宇宙線の中には、現存する粒子加速器が実現できる値の1億倍以上のエネルギーを持つものがあるというから驚きです。そんな宇宙線の起源と加速機構は未だに解明されておらず、それを解明することは高エネルギー宇宙物理学において最も重要な課題の一つです。

宇宙線のエネルギースペクトルはベキ型をなしていて、非熱的な加速を受けていることが分かります。また、スペクトルは10^15eV付近に‘knee’と呼ばれる折れ曲がりを持ち、knee以下のエネルギーの宇宙線は銀河系内の超新星衝撃波によって加速されている(DSA : diffusive shock acceleration)と考えられています。DSAとは粒子が磁場の擾乱によって散乱され、衝撃波の上流、下流を行き来することで統計的に加速されるというモデル(図上)で、粒子の加速効率は磁場の擾乱の大きさに依存すると考えられています。しかし、このモデルに超新星衝撃波の典型的なパラメータをあてはめた場合、理論的に予想される粒子の最高エネルギーはkneeまで1桁以上足りません。

そこで本研究では、宇宙線自身のエネルギーによって磁場の擾乱が増幅され、それによってDSAが効率よく起こり、宇宙線がさらに加速されるのではないか、という視点で数値シミュレーションを行い、上記のような難問に挑んでいます。具体的にはシミュレーション空間に衝撃波を生成し、その中に宇宙線を入射した際の磁場や粒子のエネルギー変化等を見ています(図下)。





DSAの概念図



シミュレーションで得られた電子のエネルギー分布関数の空間依存



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