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次世代電気推進


 電気推進機関とは

電気推進機関(プラズマエンジン)とは、太陽電池などにより発電した電力によって推力を発生させる事により宇宙空間を航行しようという推進機関です。現在、非常に多くのタイプのものが世界中で提案、実用化されており、NASAではDeepSpace1という探査機が電気推進機関を搭載し、日本でも小惑星イトカワの探査を行っている「はやぶさ(MUSES-C)」が主推進機関として電気推進機関の一種であるイオンスラスタを搭載しています。
 電気推進機関の特徴は、推力は低いものの比推力と呼ばれる燃費を意味する性能が高いことです。これはすなわち、少量の推進剤で効率よく加速できるということになり、電気推進機関を使えば探査機が搭載する推進剤の量は従来の数分の1にまで減少します。これは一見大した事ないように思えるかもしれませんが、従来の化学推進を搭載した探査機の場合、探査機重量の約半分が推進剤という事(500kgの探査機ならば約250kgは推進剤)を考えれば、その利用価値は理解できると思います。また、推力が低いという事は、化学推進の場合と比べて加速に長い時間がかかるということになります。このことより、電気推進機関は地球外惑星探査などの長期間のミッションにおいてその優位性を発揮し、推進機関はその長期間の運転に耐えうるものである必要があります。

 現在開発されている電気推進機関はイオンスラスタやMPDスラスタなど多くの種類があるのですが、これらの共通の作動過程は「推進剤をプラズマ化し、電気的な力によりプラズマを加速させて後方に噴射する」というものです。これらの作動過程は、推進機関内部に電極などを置いてプラズマに電気的な力を伝える事により行います。内部に電極を置くという事は、当然ながらプラズマと電極が接するということになり、推進機関内部のプラズマはエネルギーの高い荷電粒子の集まりですので、荷電粒子が電極に衝突することにより内部電極は劣化してしまいます。この内部電極の劣化は推進機関の寿命に大きく影響し、長期間の運転を前提としている電気推進機関にとっては非常に重要な問題です。

 非対称波形によるプラズマ加速

 この内部電極劣化の問題を回避する為に、推進剤のプラズマ化から加速までの一連の過程を外部からの電磁場のみで行うタイプの推進機関が数多く提案され、現在も新しいタイプのものがどんどん提案されています。これらは無電極電気推進機関と呼ばれ、現在その実現の可能性について世界中で議論されています。私たちはそれらの無電極電気推進機関のうち、都木らによって提案されたタイプの無電極電気推進機関に注目して、その実現の可能性の議論をしています。

 都木らによって提案されたタイプの無電極電気推進機関を簡単に説明すると、推進剤を高周波の電磁波によってプラズマにし、その周囲に配置したコイルより、複数の周波数を持つ電磁波をプラズマに入射します。電磁波に対するプラズマの振る舞いは周波数によって大きく変わる性質がありますので、この性質を上手く利用すればプラズマ内部に周方向の電流が誘起できると考えられます。そしてプラズマ内部に誘起した電流と磁場の相互作用によりプラズマは電磁的に加速されて後方に噴射されるというのが、この推進機関の作動原理です。私たちはこの作動原理の肝であるプラズマと外部電磁場の相互作用について計算機実験により解析を行っております。



非対称波形による無電極電気推進機関の概念図




非対称波外部より大振幅電磁場を入射した際のプラズマ挙動

 磁気圧圧縮によるプラズマ加速

 推進機関内部に電極を配置しない新しい電気推進機関の可能性として,外部からの電流により生じる磁場の圧力によりプラズマを加速する磁気圧圧縮による次世代電気推進機関のコンセプトモデルについて解析を行っています。概念としては、図1に示すように円柱状のプラズマに外部から周方向に電流をかけると軸方向の磁場が強くなります。磁場が強くなると磁力線同士の斥力(磁気圧)のためにその部分のプラズマが圧縮され押し出されます。




図1 外部電流によって集められたプラズマ



ここで図2に示すように外部電流の位置を動かすと、磁力線に閉じ込められたプラズマを動かすことが出来るはずです。



図2 磁気圧圧縮による電気推進機関のモデル


 解析方法としては、まず推進機関内部を上図のような円柱状のプラズマとしてモデル化をします。また、本来膨大な数の荷電粒子から構成されているプラズマを“電磁場の影響を受ける流体”という巨視的な視点から扱います。この考え方を電磁流体力学(MHD:Magneto Hydro Dynamics)といい、MHD方程式(流体の運動を記述する連続の式、運動方程式、電磁場を記述するMaxwell方程式など)によって系は支配されます。この方程式をもとに数値計算コードを作成し、様々な外部電流をかけた場合のプラズマの挙動を理論解析及び数値計算の面から調査をしています。(図3参照)

図3 磁場,プラズマの密度,軸方向の速度の空間分布図

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