研究内容

無衝突衝撃波の物理

地球磁気圏衝撃波や惑星間空間衝撃波、超新星残骸衝撃波、天体ジェットに伴う衝撃波など、宇宙空間には普遍的に衝撃波が存在します。これらの衝撃波は、遷移層の厚みがプラズマ粒子間衝突の平均自由工程よりも桁違いに小さいため、無衝突衝撃波と呼ばれます。無衝突衝撃波は宇宙のエネルギー変換器の役割を担っており、衝撃波近傍では大振幅の波動(電磁場)や高エネルギー粒子(宇宙線)が作られることが知られていますが、その物理機構が複雑で詳細はよくわかっていません。我々は、理論、計算機シミュレーション、大型レーザー実験などの手法を駆使して、無衝突衝撃波の物理の解明に取り組んでいます。


超臨界衝撃波のエネルギー散逸機構としての微視的不安定性

マッハ数の大きい宇宙の無衝突衝撃波ではさまざまな微視的不安定性が観測されます。不安定性を介して、上流の超音速の流れのエネルギーは、下流の熱エネルギーだけでなく、大振幅の電磁波のエネルギーや非熱的粒子のエネルギーに変換されますが、具体的なエネルギー変換機構は未解明です。例えば図は、下流のプラズマの熱エネルギーを衝撃波のマッハ数の関数としてプロットしたものです。マッハ数によって熱エネルギーの上昇率が変わることは、微視的不安定性の種類が変わることによると考えられていますが、これはほんの一例です。我々は、宇宙の広いパラメータ領域で、無衝突衝撃波のエネルギー変換機構および効率を支配している法則を統一的に理解することを目指しています。

無衝突衝撃波のエネルギー散逸のマッハ数依存性 

無衝突衝撃波の大型レーザー実験

近年、大型レーザーを用いて無衝突衝撃波を実験室に再現することが可能になってきました。パラメータの制御性や再現性の高さに加えて、データの時空間分離が可能であることなど、室内実験には衛星観測にない利点があるため、宇宙プラズマの新たな実証研究ツールとして注目されています。我々は、世界有数の大型レーザー装置である激光12号レーザー(大阪大学レーザー科学研究所)を用いて、無衝突衝撃波の生成法や観測手法の開発など、実験プラットフォームの構築に取り組んでいます。 左:激光12号レーザー(大阪大学レーザー科学研究所)、右:大型レーザー実験による衝撃波の伝搬