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宇宙プラズマ中の乱流・非線形波動


 理論・シミュレーション

宇宙空間は密度が非常に薄い、いわゆる無衝突プラズマに満たされています。それらのプラズマ粒子の一つ一つは、電磁的な波動を介して互いに力を及ぼしあっています。宇宙空間中には恒星などのプラズマの源(ソース)が無数に存在しており、そこから非平衡なプラズマが絶えず放出されています。非平衡状態におかれたプラズマは、その自由エネルギーをプラズマ波動の励起により解放しようとします。そして多くの場合、励起された波動は広大な宇宙空間の中で、複雑な境界条件の影響を殆ど受けることなく伝播し、大振幅となって、非線形発展をします。その結果として生じるプラズマ乱流は、プラズマの物理過程、および長時間発展に重大な影響を及ぼすことになるのです。

我々は、宇宙プラズマの磁気流体乱流の中でどのようなプラズマ波動の非線形発展が起こっているか、またそれらがどのように系の長時間発展に影響を与えているかについて研究しています。現在は、太陽風中の乱流の非線形性(乱流中の特徴的な構造/波形)が生成されるメカニズムについて、理論・シミュレーションを用いた解析を行っています。また、非線形性などの乱流の物理的性質が、高エネルギー荷電粒子(宇宙線)の加速・拡散やプラズマ全体の加熱にどのような影響を与えるかについて、様々な理論的手法、シミュレーション手法を用いて議論しています。さらに、本質的には運動論的(ミクロ)な取り扱いをする必要がある太陽風中の無衝突プラズマが、どのくらい流体的(マクロ)な取り扱いで記述できるのかを定量的に評価する解析方法についても、理論解析を元に議論を行っています。


磁気流体系における、アルフヴェンソリトンの相互作用。横軸は時間、縦軸は空間を表している。波動間相互作用により初期に与えた雑音が増幅され、幾つかのソリトンが生まれる。これらが互いに衝突を繰り返しながら伝搬していく様子がわかる。





 衛星観測データ解析

1960年代初めに人工衛星が打ち上げられてから、人類は宇宙空間の物理現象を直接観測することが可能になりました。人工衛星による直接観測で得られる知見は、そこで見られるプラズマ現象の物理的な理解を通じて、人工衛星が到達できていない惑星や、太陽近傍、太陽系外の天体などで生じる現象の理解にも貢献します。我々は、宇宙プラズマの磁気流体乱流の中でどのようなプラスマ波動の非線形発展が起こっているか、またそれらがどのようにプラズマの長時間発展に影響を与えているかについて、宇宙プラズマの中で見られる現象の中でも、精密な観測結果が得られ、また非線形性が顕著でエネルギー的にも重要である、太陽風プラズマ中の磁気流体波動および磁気流体乱流に焦点を当てて研究しています。これまでに、波動間の「位相」の相関をフラクタル解析で定量化する手法を用いて、人工衛星データから太陽風中の磁気流体乱流における「非線形性」を定量化することに成功しました。また、理論・シミュレーションの議論と連動して、プラズマの密度と磁場の揺らぎの相関を考えることなどから、現在もその性質が明確とされていない太陽風中の乱流についての議論を行っています。



太陽風中の磁気流体波動の振幅(横軸)と乱流の非線形性(縦軸)の相関図。波動の振幅が大きいほど、乱流中に特徴的な構造がより多く生成されていることが分かる。さらに、衛星が太陽風を観測した地点(各マーク)による依存性も確認できる。


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