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非ジャイロ等方プラズマの定式化

 よく知られているように、磁気流体力学(MHD)系では、プラズマが常に等方・軸対象であると仮定されています。これは、プラズマの緩和時間スケールが、考慮する現象の時間スケールに比べて十分短い場合には正当化できますが、無衝突である宇宙プラズマ中ではこの近似が成り立たない(事が本質的である)現象が数多くあります。磁気再結合過程、無衝突衝撃波、非線形MHD波動などです。これらの例では、現象全体の時間・空間的スケールはいわゆるMHD領域に属するものの、その本質を決めている物理過程の中ではMHD近似が成り立っていません。例えば、磁気再結合過程において、プラズマ粒子が散逸領域を通過する時間は圧力の緩和時間に比べて必ずしも長くないし、また、衝撃波下流のプラズマが非常に強い非平衡状態にあることも周知の事実です。

 一方、MHD系の一つの拡張として、いわゆるCGL系を考えることもできます。この系では、磁力線に対して平行および垂直な圧力を独立な変数として扱うことにより、プラズマが常に等方であるという制約は取り除かれています。実際、プラズマが等方であっても、摂動のオーダーで非等方分布が実現されるため、CGL系中の線形波動の分散関係は、ヴラソフ方程式系から得られるものに近くなることが知られています。しかし、核融合プラズマなどの場合とは異なり、宇宙プラズマは高ベータであるため、プラズマが常に磁化されていることを仮定するCGL系を適用することには本質的に無理があります。そもそも、例えば磁気中性点では、磁力線の方向を定義できません。

 私たちは、いわゆるMHD領域の現象を、ヴラソフ方程式のモーメントである圧力テンソル方程式にまで立ち戻り、プラズマの緩和時間スケールを外部パラメータとして与えることにより定式化しています。具体的には、圧力テンソルに対し、その等方化および軸対象化に対する緩和時間、TiおよびTgを導入します。Tg=0の極限がCGL、更にTi=0としたものがMHDです。CGL系では、いかに微少な磁場でもその方向の変動にプラズマ圧の非等方性の方向が追従することが要求され、このことからPetsheck型の再結合過程は存在し得ないことが示されます。Tg=0でPetsheck型となり得るのは、もともと非等方性のないMHDの場合のみです。得られた系の性質を内在する波動の分散関係を用いて吟味し、またこれを無衝突衝撃波、磁気再結合過程などの宇宙プラズマ現象に応用する可能性について議論しています。



図は非ジャイロプラズマ中のMHDノーマルモードであるファスト波とスロウ波の減衰率を示す。非ジャイロプラズマでは、定式化の際に導入した緩和時間の効果により、波動の減衰があらわれる。



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