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宇宙プラズマ中の非線形MHD波動と乱流現象

 宇宙空間を満たすプラズマは、密度が非常に薄いため、粒子間のクーロン衝突がほとんど無視できる、いわゆる無衝突プラズマの状態にあります。実際、例えば太陽系内の平均的電子密度(約数個/cc)を用いてプラズマ粒子の平均自由行程を評価すると、それは太陽地球間距離のオーダーという非常に大きな値となります。一方で、荷電粒子の集合体であるプラズマの運動は、マックスウェルの方程式を介して電磁場の影響を受け、更に粒子運動は電磁場に影響を与えますから、つまりプラズマ粒子同士も電磁場(波動)を媒介として相互作用をすることができるということになります。マクロな視点からプラズマ粒子間の相互作用を散逸として捉え、前者のクーロン衝突によるものを古典的散逸、電磁場を介するものを異常散逸、と言うことにすると、異常散逸はその成り立ちから明らかなように、プラズマ波動と不可分の関係にあります。

 宇宙プラズマ中では、プラズマが熱的平衡分布にある場合はむしろ稀で、速度空間でのビーム分布、リング分布、温度異方性を持つ分布など、非平衡状態にあることの方がむしろ普通です。これは、宇宙空間に熱的非平衡なプラズマを作る源泉が存在し、かつ宇宙プラズマ中では古典的散逸はもとより異常散逸も普通は余り大きくない(非平衡分布が作られてから観測されるまでの時間に比べて、散逸による緩和時間の方が長い)ためです。非平衡分布の源泉としては、宇宙プラズマ衝撃波、磁気圏、天体ジェットなど、数々の天体現象がありますが、ひとたび非平衡状態におかれたプラズマは、その自由エネルギーをプラズマ波動の励起により解放しようとします。多くの場合、励起された波動は大振幅となり非線形発展をしますが、その結果として生じるプラズマ乱流は、異常粘性、異常電気抵抗などの形で、プラズマの長時間発展に大きな影響を及ぼすことになります。宇宙空間は、熱的非平衡プラズマと非線形プラズマ波動現象を研究するための、自然が我々に与えてくれた理想的な実験室であると言えるでしょう。

 我々の研究室では、上で説明したような超高レイノルズ数、非線形、非平衡な宇宙プラズマの中で見られる乱流現象の中でも、特に精密な観測結果が得られ、また非線形性が顕著でエネルギー的にも重要な、太陽風プラズマ中の磁気流体波動および磁気流体乱流に対して、その理論、モデル化、計算機シミュレーション、さらには人工衛星データの解析法などの側面から、研究を行っています。



磁気流体系における、アルフヴェンソリトンの相互作用。横軸は時間、縦軸は空間を表している。波動間相互作用により初期に与えた雑音が増幅され、幾つかのソリトンが生まれる。これらが互いに衝突を繰り返しながら伝搬していく様子がわかる。



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